| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-008 (Poster presentation)
生物の系統地理構造は、過去の地史的環境や種の進化的背景を反映することが知られている。アカギツネは日本列島では数少ない高次広食性捕食者であることから、その系統地理構造を解明し他種哺乳類と比較することで、日本列島における哺乳類相の形成プロセスについて新たな知見の獲得が期待される。そこで本研究では、本州および四国においてアカギツネのサンプルを採集し、塩基配列の決定、分子系統解析、および分岐年代推定を実施した。アカギツネの耳組織および糞を富山県、石川県、岩手県、および愛媛県から計10個体分採集し、それぞれからmtDNA cytb遺伝子領域全長 (1140 bp) の塩基配列を決定した。その結果、新規の4ハプロタイプを含む5ハプロタイプを検出した。これらと、先行研究において日本列島およびロシア沿海州から報告されているハプロタイプとを用いて分子系統樹を探索した。系統解析の結果、本研究で検出された5ハプロタイプは、先行研究で報告されているHonshu / Kyushu系統に属すことが明らかとなった。また、Honshu / Kyushu系統はさらに2つのグループ (グループαおよびグループβ) に内部分岐することが示唆された。グループαには富山県で検出されたハプロタイプHN02および東北地方で検出されたハプロタイプが含まれ、グループβには富山県 (HN02以外) 、石川県、神奈川県、愛媛県、および宮崎県で検出されたハプロタイプが含まれた。また、両グループ間の分岐年代は、約59 ~ 9万年前と推定された。これは、ニホンジカやツキノワグマにおける日本列島の各地域系統の分岐年代と概ね一致する。これらの結果から、東北地方から富山県にかけて分布するグループαのアカギツネと、四国や九州も含めた日本列島の広い範囲に分布するグループβのアカギツネは、それぞれ異なる時代にユーラシア大陸から日本列島に移入した可能性が考えられる。