| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-010 (Poster presentation)
日本最大級の野生大型哺乳類であるツキノワグマ(Ursus thibetanus)は森林生態系の重要な構成者である一方、本種によって引き起こされる農林業被害や人との遭遇事故が近年大きな社会問題となっている。本研究では、ツキノワグマの保護管理ユニットの再考、管理策の基盤の提案を見据え、ツキノワグマの分布変遷を解明することを目的に、 大規模な集団遺伝学的解析を行った。材料として、青森県から京都府にかけて採取したツキノワグマ1290個体分の組織サンプルを対象に、両性遺伝する核DNAのマイクロサテライト16遺伝子座を用いた。STRUCTURE解析の結果、クラスター数16程度までは生物学的に意味のある明確な遺伝構造がみられた。クラスター優占割合8割を基準に地域集団データを整理したところ、遺伝的多様性は北上山地、南アルプス、琵琶湖以西などの地域集団では他集団よりも低く、反対に北陸地方などの集団の遺伝的多様性は高い傾向がみられた。集団間のF’STは0.412であり、比較的高い集団分化がみられた。集団間の境界には山脈間の盆地・市街地が多く存在することから、これらの要因がツキノワグマの移動の抵抗となり、地域集団間の遺伝子流動に大きく影響していることが示唆された。空間遺伝構造を雌雄で比較すると、雌の遺伝子型の空間自己相関は近距離では雄のそれより有意に高く、遠距離では雄より有意に低く、雌雄での移動パターンの違いが検出できた。さらに地域集団間の遺伝的関係から本州中央の日本アルプスに沿う盆地を境にその東西でツキノワグマ集団が分化していることがわかった。この結果について集団動態推定により検証したところ、東西の集団分化は最終氷期最盛期(約2,1000年前)に向かい日本列島が寒冷乾燥化した数万年前におこり、現在みられる複数の地域集団は最終氷期最盛期以降に分化していった可能性が高いことがわかった。