| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-012  (Poster presentation)

遺伝マーカーを用いたヤクシカの個体群履歴と地域集団間移住率の推定
Estimation of demographic history and between-population migration rate of Cervus nippon yakushimae using genetic markers

*園田拓希(九州大学), 廣田峻(東北大学), 陶山佳久(東北大学), 矢原徹一(九州大学)
*Hiroki SONODA(Kyushu University), Shun K. HIROTA(Tohoku University), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku University), Tetsukazu YAHARA(Kyushu University)

近年、屋久島において、固有亜種であるヤクシカ(Cervus nippon yakushimae) の個体数が増加し、の農林業被害に加え、絶滅危惧植物を含む林床植物を減少させている。このため、生態系管理の一環として、罠猟捕獲によるヤクシカの個体数管理が行われてきた。その結果、ヤクシカの年間捕獲個体数は平成26年度 (約5,300頭) をピークに減少傾向になった。ヤクシカの個体数は減少していると見られるが、捕獲への反対意見を考慮して捕獲が行われていない西部地域では、高密度のヤクシカ個体群が維持されている。西部地域におけるヤクシカに関して、他の地域とは異なる独自の遺伝的組成を持つかどうか、西部地域から他地域へのヤクシカの移住率がどの程度かを評価する必要がある。本研究では、MIG-seq法で得られるゲノム全体のSNPsを遺伝マーカーとして、各地域集団のヘテロ接合度、個体数履歴、地域集団間の移住率を推定した。屋久島内地域の12地点で採取されたヤクシカ95個体の尻尾や肝臓のサンプルからDNAを抽出し、MIG-seq法によりゲノムワイドSNPを得た。ADMIXTUREによる集団構造解析により、屋久島内における最適クラスター数(K)はK=1またはK=2と推定され、K=2の場合、北部(西部地域の北に位置する永田を含む)と南部の2つのクラスターに分かれることが示された。2つのクラスター間の移住率を、Bayes Assを使用して、2パラメータモデル(AからBへの移住率とBからAへの移住率を異なると仮定したモデル)で推定した。この結果、北部から南部の移住率は2.98%、南部から北部への移住率は17.51%であり、南部から北部に移住する傾向が示唆された。これらの結果から、ヤクシカ地域集団間の遺伝的分化のレベルは低く、西部地域と他の地域の間にも集団間分化をおこさないレベルの遺伝子流動があると考えられる。


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