| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-017  (Poster presentation)

イワナに寄生するカイアシ類における感染率の生息地間変異:生息地の分断化に着目して
Factors affecting the abundance of parasitic copepods that attach to the mouth cavity of salmonids

*長谷川稜太, 小泉逸郎(北海道大学環境科学院)
*Ryota HASEGAWA, Itsuro KOIZUMI(Hokkaido Univ.)

寄生者は自然界で普遍的な存在であり、現存種の約半数を占めるとも言われる。寄生者の感染は宿主の行動や生活史をしばしば改変し、宿主の適応度や群集にまで影響することが示唆されているが、分布やその影響といった基礎的な知見は限られている。
イワナナガクビムシ(Salmincola carpionis、以下ナガクビムシ)はイワナの口腔内に寄生するカイアシ類である。本種は遊泳力が低い上に浮遊幼生期を持つため、河川の上流から下流への流れによって、下流に分布が偏ることが期待される。しかし、本種を含むSalmincola属で、水系内の分布を調べた研究はない。そこで、(1)上流から下流にかけてナガクビムシ個体数は増加する(標高とナガクビムシ個体数の間には負の相関が見られる)、(2)ナガクビムシ個体数の低下は堰堤や滝の上流など隔離群で顕著である、さらに、(3) ナガクビムシの寄生は宿主のコンディション(CF)を減少させる、という三つの仮説を立てて研究を行った。
2019年5月から10月にかけて、北海道南部の汐泊川水系において隔離群を含む19地点で野外調査を行った。電気ショッカーでイワナを捕獲し、各地点のナガクビムシ個体数と感染強度(ナガクビムシ個体数 / 感染個体)を算出した。
仮説(1)とは反対に、標高には正の効果が認められた。また、隔離群のナガクビムシ個体数は開放群に比べ、有意に低かった。寄生強度とCFの間には有意な負の相関が認められた。この結果は、本種の寄生が宿主に影響することを示唆する。さらに、イワナ回遊型(降海型)の感染強度の平均値は、残留型の約2倍だった。
開放群では回遊型をはじめとする宿主の移動がナガクビムシの上流から下流への分散を補償しているのかもしれない。一方で、堰堤や滝より下流の宿主は隔離群に移動することができないため、隔離群でナガクビムシ個体数が顕著に減少したと考えられる。以上の結果から、宿主の生活史が上流個体群の維持に貢献している可能性が示唆された


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