| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-022  (Poster presentation)

温帯性蚊の個体群動態の降雨依存性
Rainfall dependence of the population dynamics of the temperate mosquito

*上野一喜(早稲田大学), 福井眞(水研機構・中央水研), 太田俊二(早稲田大学)
*Kazuki UENO(Waseda University), Shin FUKUI(Nat.Res.Ins.Fisheries Sci.,FRA), Shunji OHTA(Waseda University)

温帯性の変温動物の中には季節変化に応答した生活史を持つものがいる。感染症媒介蚊のヒトスジシマカもその一例である。感染症媒介蚊の個体群動態について、季節性を代表する環境変数として日長や温度に注目した研究が多くなされてきた。一方、日本では梅雨や台風などの季節性の降水イベントがあり、水棲ステージの個体数動態が影響を受けると考えられる。本研究では、降雨が蚊の個体群維持に及ぼす影響を組み込んだ気候データ駆動型の個体群動態モデルを利用して、温帯性蚊の個体群動態の再現ならびに将来予測を試みた。東京で採取された実測の個体数データを用い、尤度を指標としてモデル内のパラメータ推定を行った。さらに蚊個体群の将来予測のために将来気候予測データ(GCM)を検証した。すると、GCMによる降水量の推定値は、観測値に比べて降水強度の弱い雨が長く降る傾向があり、将来予測されているような降水パターンとなっていなかった。そこで、降水について過去の実測気象データから月平均値について統計的に大きく外れないようなランダムリサンプリングによって降水データを生成した。この際、将来の東京の気候として提言されている無降水日数や降水強度の増加を考慮した降水パターンを生成し、蚊個体群予測の入力データとした。その結果、将来の梅雨時期の無降水日数が増加することを反映して、水棲ステージの個体数増加が抑え込まれ、夏季にピークとなる個体数はこれまでのモデル予測値よりも小さくなった。気候変動影響として気温の変化がおよぼす影響のみならず、降水パターンの変化が温帯性蚊の個体群動態の気候変動影響予測にとって重要な環境変数となることが示された。感染症媒介蚊の個体数の増減は、気候変動下での潜在的な感染症リスクの変化を示唆するものであり、公衆衛生上の課題に関して気候学と生態学の視座から新たな知見を提供することができた。


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