| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-023  (Poster presentation)

寄生虫感染率の生息地間の違い:イワナに寄生するカイアシ類における瀬‐淵間比較
Prevalence of parasitic copepods in the pool and shallows

*村上玲央, 長谷川稜太, 大槻泰彦, 小泉逸郎, 柁原宏(北海道大学)
*Reo MURAKAMI, Ryouta HASEGAWA, Yasuhiko OTSUKI, Itsuro KOIZUMI, Hiroshi KAJIHARA(Hokkaido Univ.)

寄生虫は生態系の中で大きなバイオマスを占めており、中には宿主に害を及ぼす種類も存在する。そのため、寄生虫の生態の解明は、生態学において非常に重要である。寄生虫の感染率に傾向があれば、宿主と寄生虫の生存戦略に関連しているだろう。
ヤマメナガクビムシ属は淡水性サケ科魚類に寄生する寄生性のカイアシ類であり、宿主の口腔内の腫れや、鰓の損傷を引き起こすことが知られている。本属の種では、卵から遊泳可能な幼生が宿主の体表に付着して寄生を完了するとされているため、流れの速い環境では寄生が制限されると考えられる。また、本属の感染率は、近接した河川間でも大きく異なることが知られている。そのため、河川毎の瀬や淵といった微細環境が感染率に影響している可能性もある。
本研究では上記の仮説を検証するため、流速を含めた微細環境が異なる瀬-淵間で、イワナに寄生するイワナナガクビムシの感染率を比較した。北海道南部の汐泊川水系における2支流で野外調査を行った。各支流の瀬と淵(瀬:7地点,淵:7地点)毎に電気ショッカーでイワナを採捕し、イワナナガクビムシの感染率、瀬-淵間の物理環境(流速.川幅.水深.底質)を解析した。主成分分析の結果、第一主成分は流速と強く相関し、流速の速い瀬と、遅い淵で明瞭に区別された。また、感染率は瀬で低くなる傾向がみられた。イワナの体長が大きくなるほど、感染率は高くなる傾向が認められ、他の物理環境には、有意な効果は認められなかった。
以上の結果は冒頭の仮説を支持しており、感染率は流速の遅い瀬で低くなることから、遊泳能力が低い幼生が流されている可能性が示唆された。イワナナガクビムシは、流速の遅いところで卵を孵化させる戦略をとる可能性がある。
また、瀬-淵のような微細環境が河川毎の感染率の違いに影響している可能性がある。


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