| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-025 (Poster presentation)
都市環境の急速な拡大は、野生動物が利用する自然資源の損失をもたらすことが指摘されている。一方で、都市には餌付け餌やゴミなどが通年豊富に存在することから、人由来の餌資源を供給する環境でもある。実際に、自然下に生息する同種個体群と比較すると、都市に生息する生物は人由来の餌資源を利用することで栄養状態が良いことや、生存率や繁殖成功が高いなど、行動や生活史を変化させて都市での生息を可能にしていることが示唆されている。しかしながら、人由来の餌が野生動物の生態に及ぼす影響は種によって多様であり、驚くことに都市の集団において食性や栄養状態の変化から生存への一連の影響を調べた研究はない。北海道の都市部に生息するキタリスSciurus vulgarisは、警戒心や人間に対する反応が郊外の自然林(以下、郊外)に生息する個体群と異なることが知られる。また、都市のリスは市民から日常的に餌付けされており(高質なクルミとマツの実など)、郊外の個体群より一年を通して体重が重い。体重の増加は生存率の向上をもたらすため、都市での高い生存率が予測される。そこで本研究では、都市3調査地と郊外4調査地において、4ヶ月毎に標識個体(成獣を中心に)の生息確認を3回行うことで個体の発見率を推定し、それをもとに隠れマルコフモデルを用いて、郊外と都市のリスの4ヶ月での生存率を推定した。その結果、発見率は郊外と都市で29%、40%であり、4ヶ月での生存率は75%、63%と推定された。また平均した生息期間は郊外で16ヶ月、都市で11ヶ月であった。都市の生息地は、郊外と比べて交通の多い道路に囲まれており、予想に反した低い生存率は交通事故による可能性がある。また、稀ではあるが成獣による生息地分散も報告されている。分散による消失を考慮した生存率を今後検討する必要はあるが、都市は一概に長期間の生息に好ましい環境ではない傾向が示唆された。