| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-030 (Poster presentation)
マングローブ域は地球上で最も生物生産性に富む海域であり、その高い生産性に依拠した多様な生態系サービスを提供する。他方、近年では深刻な人為的攪乱に曝されており、農業排水の流入による富栄養化が生じている。一般に、マングローブ域に生息する底生動物群集は、富栄養化に対して高い頑健性を示す。しかし、マングローブ域には林冠に覆われた群落内部(林内)だけでなく、樹木を欠く隣接干潟(干潟)も含まれ、後者では樹木による緩衝作用が乏しいことが予見される。従って、富栄養化の適切な影響評価には、それら微細生息場ごとの詳細な検証が不可欠である。本研究ではマングローブ域の底生動物群集を対象に、富栄養化に対する頑健性を微細生息場ごとに評価することを目的とした。
沖縄県石垣島の名蔵川下流部のマングローブ域において、農業排水の流入が著しい水域(影響区)と排水流入が乏しい水域(対照区)を選定し、それぞれの水域に存在する林内と干潟の計4地点を調査定点とした。2018年6月、7月、11月および2019年2月に環境要因と底生動物群集を調査し、それらを排水の有無および生息場間で比較した。
その結果、影響区では底生動物の餌となるマングローブリター量と堆積態有機物量が有意に増加することが判明した。底生動物に関しては、影響区においてのみ、生息場間で種組成が類似していた。影響区では対照区に比してタママキが増加し、これは餌となる堆積態有機物量の増大によって生じるものと推察された。すなわち、本来異なる種組成を示す林内と干潟は、排水によって特定種が増加し、互いに類似した組成を示すことが示唆された。以上より、富栄養化への頑健性が高いとされるマングローブ域であっても、微細生息場に関わらず、農業排水によって餌環境要因が変化し、それに伴う底生動物の種組成改変が生じることが明らかとなった。