| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-036 (Poster presentation)
種の共存は、生息場所、時間、食物などの資源に基づくニッチを分けることで可能になる。北海道にはアカネズミ(Apodemus speciosus)、ヒメネズミ(Apodemus argenteus)、エゾヤチネズミ(Myodes rufocanus)という3種の野ネズミが同所的に生息しており、3種の生息場所と行動時間のニッチは重複していることが知られている。しかし、食物のニッチについては糞や胃内容物を顕微鏡観察で調べた断片的な報告しかされていない。また、食物のニッチ幅や種間のニッチ重複度合いは餌の資源量や消費者の個体数によって変化すると考えられているが、その実態は未解明である。そこで、本研究では3種の野ネズミの食物ニッチの分割の実態を解明するために、DNAメタバーコーディング法による食性分析を行った。ドングリ豊作年の2018年の6,8,10月と2019年の6,8月に北海道大学の雨龍研究林において、上記3種の野ネズミの捕獲調査を実施し、捕獲個体毎にトラップ内の糞を採取した。その糞を元に葉緑体trnLおよびミトコンドリアCO1をマーカーとしたDNAメタバーコーディング分析を行い、餌資源の季節変化、野ネズミの個体数変化に伴う植物・動物食性の種間比較を行った。結果として、餌動物資源の多い2018年8月は、食べていた餌動物の重複は大きかった。また、餌動物資源の少ない2018年10月は3種が食べていた餌動物の重複は小さかった。しかし、2019年にかけて野ネズミの個体数が大幅に増加すると餌動物資源の多い8月でも3種は食物ニッチを分割していた。植物種に関しては、ドングリが凶作年を対象にした先行研究では、アカネズミとヒメネズミが有意に食物ニッチを分割しているとされていたが、2018年のドングリ豊作年にはアカネズミ、ヒメネズミ、エゾヤチネズミ共にドングリを食べておりニッチ重複が大きいことが示された。このことから、3種は季節や年次的な資源量の変化、また、野ネズミの個体数に応じて食物ニッチを変化させていると考えられた。