| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-038  (Poster presentation)

都市における飛翔性昆虫の垂直分布
Vertical distribution of flying arthropods in metropolitan area

*木野寛, 小池文人(横浜国立大学)
*Hiroshi KINO, Fumito KOIKE(Yokohama National Univ.)

 昆虫の飛翔は,採餌のための近距離の移動や,繁殖と産卵における分散などがあり,生活史の中で重要な行動である.昆虫の飛翔は水平方向と高さ方向ともに立体的に分布する.高所の飛翔昆虫の空間分布に関する研究は,上空にアクセスするために特殊な方法が必要であるため,森林や開けた土地では行われているものの都市ではあまり行われていない.本研究では東京都市圏南部の市街地で,建物のさまざまな高度に粘着トラップを設置することで都市空間における3次元的な昆虫分布を調査した.
 のべ377日の粘着トラップ設置により4437個体が採取され,ハエ目,ハチ目,カメムシ目,アザミウマ目,上科,科レベルでコバチ上科,ユスリカ科,キノコバエ類の順で採取された(個体数順).この中でコバチ上科とユスリカ科がそれぞれ2割程度であり優占していた.建物の1階では上階と大きく異なりコナジラミ科が優占し,それ以外ではコバチ上科とユスリカ科が優占したため,以後は2階以上のみを解析した.立体的な都市の空間利用では高所にユスリカ科、チャタテムシ目が多く(アザミウマ目は減少),建物の屋上付近にはヌカカ科やアザミウマ目,周囲が数百メートルの空間スケールで開けた場合にコバチ上科が多かった(アブラムシ上科は減少).ユスリカ科(水生)やチャタテムシ目(小型乾燥デトリタス食)は都市上空を風で移動し,コバチ上科(小型寄生)は建物群の間の空間を受動的に移動している事が示唆された.建物の周辺数百メートルに緑地が存在することでコバチ上科(小型寄生),ユスリカ科(水生),タマバエ科(植物寄生)、ダニ目が多く,周辺緑地からの飛来が示唆された.地域の夜間光量は寄与していなかった.小さな空間スケールとして,屋上緑化された階ではキノコバエ類(土壌)やタマバエ類(植物寄生),コナジラミ科(吸汁)が多く,植栽からの発生が示唆された.


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