| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-039 (Poster presentation)
対捕食者戦略の一つであるベイツ型擬態は、毒や防御機構を持たない種(擬態種)が毒や防御機構を持つ種(モデル種)に姿を似せることで、捕食リスクを低下させる戦略のことであり、様々な分類群で見られる普遍的な現象である。
ベイツ型擬態を行う種で、擬態モルフと非擬態モルフの種内多型(以下、擬態多型)が多数報告されている。従来の研究では、擬態モルフの種内頻度が増加するとその捕食リスクが増大することで負の頻度依存選択が働き、擬態多型が維持されていると考えられてきた(擬態仮説)。ただしこの仮説では、モデル種密度が非常に高い場所では負の頻度依存選択が働かず、擬態モルフが固定されるはずである。しかしながら、メスがベイツ型擬態を行う鱗翅目の複数種で、モデル種密度の異なる地理的に広い範囲で擬態多型が安定的に維持されていることから、擬態仮説とは異なる擬態多型の維持機構が存在すると考えられる。
そこで本研究では、メスの擬態多型がモデル種密度の高い場所で維持されるという鱗翅目で見られる現象への説明として二つの仮説を提案した。一つ目は、メスに対するオスのハラスメントがメスの形質に対する負の頻度依存選択として働き、その結果メスの擬態多型が維持されるとする仮説である。二つ目は、擬態種の出現時期に比べてモデル種の出現時期が短いために、擬態モルフが有利な時期と非擬態モルフが有利な時期が交互に訪れ、その結果擬態多型が維持されるとする仮説である。
二つの仮説の論理的妥当性を評価するため、理論モデルの構築および解析を行った。その結果、擬態仮説だけでは擬態多型が維持されない場合であっても、オスのハラスメントや出現時期の不一致があれば擬態多型が維持されうることが分かった。以上から、ベイツ型擬態に起因する負の頻度依存性だけでなく、オスのハラスメントや出現時期の不一致によっても、擬態多型が維持されている可能性が示唆された。