| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-041 (Poster presentation)
多摩川の河川敷は、
1)10年に一度程度の洪水攪乱が卓越している、
2)山地から都市の中まで連続している、
3)一つの断面で、湿潤から乾燥、裸地から樹林、草刈りの有無などの多様な環境があり、縦方向の環境の変化が小さく、横方向の変化が大きい
4)γ多様性が高いものの、α多様性が低くβ多様性が高い
という環境的な特徴を持つ。
既存研究の多くは上記1)~4)の環境的特徴が河川生物の個体数や群集構造を決定する支配的な要因であることを示しているが、土壌動物、とりわけ多足類の河川敷における研究例は少ない。そこで、本研究では多摩川中流域において、河川敷を代表する4つの相観(疎林、高茎草原、低茎草原、礫河原)に注目し、ハンドソーティング法によりそこに生息する多足類相を調べ、環境要因(全植被率、土壌硬度、土壌水分含有率、土壌孔隙量率、リター乾重量、相対照度)との関係を主成分分析から考えること、また、台風19号の洪水攪乱で失われた多足類相の回復の順番を調べることで、多足類にとって適した生息環境を明らかにすることを目的とした。
結果として、礫河原では多足類は得られず、属数は礫河原を除く相観で同一、個体数は疎林で最も多くなった。環境要因の解析から、多足類は、リターが多く堆積し、土壌硬度が大きく、土壌孔隙量率が高い場所、あるいは、土壌の水分が保持されている場所に生息しているという傾向があった。また、台風19号による出水後、早い方から低茎草原、疎林、高茎草原の順で出水前の多足類相へと回復することが示唆された。
以上の結果を総合して考えられることは、多足類は、攪乱が頻繁に起こる環境ではなく、比較的安定した環境に生息している可能性があるということである。このことから、多足類にとっては、変化の少ない場所が生息に適した環境であり、安定した環境を変化させないことが多足類の保全に繋がる可能性があると考えられる。