| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-050 (Poster presentation)
マングローブ林は、海側から内陸への地形傾度に沿って樹種組成や林分構造が不連続に変化する、いわゆる成帯構造をもっている。この成帯構造に沿って、樹木種だけでなく様々な生物群集の構造が変化することが知られている。しかし、熱帯において高い種多様性を誇る昆虫群集について、成帯構造に沿った種多様性や群集構造の変化を調べた例はない。また、こうした昆虫群集構造の季節変化を明らかにした研究もない。
そこで本研究は、西表島古見のマングローブ林において、成帯構造に沿った昆虫の種多様性と群集構造の変化、およびその季節変化を明らかにすることを目的とする。海から内陸に至る4つのマングローブ群落(ハマザクロ、ヤエヤマヒルギ、オヒルギ、サキシマスオウノキ優占群落)で調査を行った。林床ルッキング、枝のビーティング、夜間ライトFITトラップを4季節において行い、9目40科346種を記録した。
種組成は、季節間で大きく異なった。各季節内では一貫して、ヒルギ科の森林(ヤエヤマヒルギとオヒルギ群落)では似ていたが、ハマザクロ群落とそれ以外の3植生帯あるいはサキシマスオウノキ群落とそれ以外の3植生帯では異なった。潮汐の影響を強く受けるハマザクロ群落で地上性昆虫、止水環境が恒常的にあるヒルギ科の森林では水生昆虫、冠水頻度が低いサキシマスオウノキ群落では陸域の森林性昆虫が多く出現した。種多様性のパターンは、温暖な時期(夏・秋)と冷涼な時期(冬・春)で異なった。温暖な時期は、種多様性は高いものの群落間で差はなかった。冷涼な時期は、種多様性は概ね低く群落間で一貫したパターンは見られなかった。以上のように、マングローブ林の昆虫群集構造は大きく季節変化すること、冠水頻度の多寡に伴う一方向的な変化ではなく各群落特異的な環境にも強く規定されることが分かった。