| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-054 (Poster presentation)
群集生態学の古典理論では、同じニッチを持つ複数の種は共存できないとされるが、実際には利用資源や生息場所などのニッチが似通った生物種が共存している現象が様々な群集で見られる。社会性昆虫のアリ群集でも、一般に行動生態の似た複数の種が野外で共存しているが、その多種共存メカニズムは未解明である。
アリでは一般に、ワーカーは同種の非血縁者に対し最も攻撃的であることが知られる。この同種への強い攻撃性は、非血縁者による種内寄生に対抗するために進化したという仮説が提唱されている。またこの同種非血縁者への攻撃性が、副産物としてその種の個体群密度を下げ、群集において他種アリとの共存を促すのではないかとの議論もある。なぜなら、群集生態学の古典理論では、種内競争による密度抑制効果が種間競争による密度抑制効果より強く働く場合に、それらの種は共存可能であるとされるからだ。しかし、種内および種間競争の相対的な強さに関する実証研究はアリでは不足しており、特に野外における研究例は皆無である。
そこで本研究では、トゲオオハリアリを用いてアリコロニーの成長(ワーカー生残率、ワーカー数の増加率およびブルード生産量)に対する種内および種間競争による抑制的効果の定量を試みた。同種アリおよび他種アリの生息密度が様々である複数の野外地点に、マーキングした本種コロニーを設置し、一週間後にそのコロニーを再捕獲することで、放飼期間におけるコロニーの成長率を調査し、同種密度および他種密度がコロニー成長に与える影響を推定した。
結果、本種コロニーのワーカー生残率、ワーカー数の増加率およびブルード生産量は、同種の局所密度が増加するにつれて減少する傾向がみられた。一方で、ワーカー生残率およびワーカー数の増加率に対する他種アリの局所密度の影響はみられなかったが、ブルード生産量に関しては、一部の他種アリで有意な負の密度依存性がみられた。