| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-058 (Poster presentation)
生物多様性による感染症リスクの制御が注目されている。実証研究を中心に、宿主やベクター(媒介者)の多様性が感染症リスクを減少させる希釈効果と増大させる増幅効果が知られてきた。最新の総説では、生物多様性の増減に伴い、増幅効果や希釈効果の相対的な現れやすさや飽和の程度が変化すること(生物多様性-感染症関係)を指摘している。しかし、そのメカニズムや条件の解明は不十分である。本研究では特にベクター媒介性感染症に着目して、感染症リスクに対するベクター多様性の効果を調べた。ベクター媒介性感染症はWHOが指定する「顧みられない熱帯病」の約半数を占めており、ベクター媒介性感染症における生物多様性-感染症関係の解明は基礎・応用両面で重要な課題である。
本研究では、ベクターの種間競争を組み込んだ多種ベクター-単一宿主の数理モデルの解析を行った。感染症リスクの指標として基本再生産数(R0)を採用した。まず、種間競争が多種ベクター系のR0を左右するメカニズムを解明するため、単一ベクター系と二種ベクター系でR0を比較した。その結果、二種の競争能力が同程度のときに増幅効果が現れた。また、種間競争の強さが非対称のときには、競争能力が高い種の感染媒介能力が低い時に、希釈効果が生じた。次に、多種ベクター系で種数を変化させて、R0を計算・評価した。このとき、どのような生物多様性-感染症関係が現れるかは、ベクターの競争能力と感染媒介能力の関係(競争に強い種ほど感染媒介能力が高い/低い)に依存して決まっていた。また、ベクターのニッチ重複度合いが高いほど感染症リスクは弱まる傾向にあった。以上の結果は、ベクター媒介性感染症の感染症リスク制御に生物多様性-感染症関係を活用しうること、また、その際にベクターの競争能力と感染媒介能力の関係やニッチ重複度合いを考慮することの重要性を示唆している。