| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-074 (Poster presentation)
動物では、特定の行動形質における傾向と別の行動形質における傾向、あるいは特定の行動傾向と形態や生態などの形質がセットになることで集団内に著しい個体間変異をもたらすことがある。行動を中心とする形質セットの変異は、「行動シンドローム」や「個性」と呼ばれる。たとえば、攻撃的な個体は、度胸強く、活動性が高い一方、非攻撃的な個体は、内気で、活動性が低い。行動パターンと体色などの形態形質がセットになるような個体間変異の例も数多く報告されている。キイロショウジョウバエには、幼虫の採餌行動における活動量の多型が知られており、よく動き回りながら採餌をするRover型とあまり動き回らないsitter型が存在する。この行動多型にも行動シンドロームの存在が指摘されており、幼虫の活動量と度胸強さとが関連することが示唆されている。本種では、foraging遺伝子の発現パターンの差異により行動多型が生じることが明らかになっている。そこで本研究では、キイロショウジョウバエを用いて、幼虫から成虫までのさまざまな形質を型間で比較することで、複雑な行動シンドロームの実態を明らかにすることを目的とした。まず、卵サイズや産卵数を比較したところ、Rover型がsitter型に対して小卵多産であることがわかった。つぎに、Rover型とsitter型の成虫に関し、さまざまな飢餓状態のもとでビデオトラッキングにより行動を観察・定量したところ、一貫してRover型がsitter型よりも度胸強い性格を示すことがわかった。ただし、成虫の活動量はRover型よりもsitter型の方が高かった。このことは、本種の場合、活動量は必ずしも発生段階を通じて一貫しないことを意味している。foraging遺伝子はいくつかのアイソフォームをもち、各アイソフォームは卵巣や脳、消化管など部位特異的に発現することが知られている。本遺伝子の各アイソフォームの時空間的な発現パターンの変化により、このような複数形質の統合が成立しているのかもしれない。