| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-076 (Poster presentation)
毒ヘビであるニホンマムシ(以下マムシ)は、両生類をはじめとする脊椎動物を主な餌としているが、無脊椎動物であるオオムカデ属のムカデだけは低頻度で食べている。このムカデ食行動は、マムシを含むクサリヘビ科のヘビ類に広く知られている。しかしムカデは、ヘビをも捕食し得る動物であり、ムカデ食にはリスクがかかると考えられるため、ムカデ特有の餌としての価値や特殊化した捕食行動の進化が想定される。しかしながら、この特殊な食性や行動についての研究はほぼ皆無に近い。本研究では、マムシがどのような状況でムカデを餌として認識し、どのように捕食するのかという、ムカデ食の至近要因の解明を目指した。その結果、マムシは健康なムカデにはほとんど反応せず攻撃もしないが、傷を負って動作が鈍いものや死体、共食い状態のものにはよく反応し、捕食に至ることが分かった。また、生きたムカデの体表のにおいにはほとんど反応を示さないが、死体のにおいには比較的反応し、棒などに縛り付けた生きたムカデには特によく反応することがわかった。さらに、マムシの毒は、ハツカネズミやカエルに対する効果と比較してムカデにはかなり低い効果しか持たないという結果が得られた。これらのことから、弱っているムカデやその死体から放出される物質がマムシのムカデ食を誘発する至近要因であると考えられる。また、ムカデはマムシ毒で殺すことが難しいため、マムシは弱っている個体や死んだ個体を選択的に捕食することで、ムカデからの反撃のリスクを回避できているのではないかと考えられる。