| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-078 (Poster presentation)
サンゴ礁に生息するニセクロスジギンポは、掃除魚ホンソメワケベラに似ることによって、鰭かじりの効率を高める攻撃擬態と、魚食性魚類からの捕食圧を低減させる保護擬態の効果を得ていると考えられている。当初は、水槽内での観察から掃除魚擬態は、鰭かじりの有利性により進化したと説明されてきた。ところが、近年の野外調査によると、鰭かじりは小型個体では頻繁に見られることがあるものの、大型個体は鰭かじりをせず、卵保護中のスズメダイ科魚類の巣を群れで襲撃し、卵を捕食するという生態が明らかになってきた。2019年の沖縄県瀬底島における野外調査では、大型個体の群れ卵食の詳細な行動観察と、これまで報告されていない繁殖行動の観察を行なった。その結果、掃除魚擬態の進化の解明につながる重要な発見がいくつかあった。すなわち、卵食においては攻撃擬態の効果はなく、スズメダイ科魚類から激しい攻撃を受けた。卵食時に見られた群れ行動は、被攻撃回数を低下させ、卵食成功率を上昇させる効果を持つことが分かった。このような群れ行動はホンソメワケベラでは見られないため、スズメダイ科魚類の攻撃に対抗して進化したと考えられる。では、大型個体は擬態を全く利用していないのだろうか。同属のクロスジギンポでは体色に性的二型がみられるのに対して、ニセクロスジギンポでは繁殖中でも雌雄ともに擬態体色を維持していた。これは大型個体においても擬態の効果があることを示唆する。本発表では、大型個体における擬態の効果について、繁殖と摂餌の両面から考察を行い、掃除魚擬態が進化した究極要因について議論する。