| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-080 (Poster presentation)
性的共食いとは、交尾の際に雌が同種の雄を捕食する行動であり、カマキリやクモなどの節足動物でよくみられる。雌にとって共食いは、摂食量を増やし、繁殖のための栄養資源を得るための戦略であることが示唆されている(共食いの量的利益仮説)。一方、他の餌ではなく、同種の雄を食べること自体の利益を調べた研究例は少ない。同種個体は栄養組成が等しいため、他の餌に比べてより質の高い餌である可能性がある(共食いの質的利益仮説)。
そこで本研究は、性的共食いによって捕食される雄は、雌にとって量的、あるいは質的な利益をもたらすのかを明らかにすることを目的として実験を行った。共食いの量的利益仮説は、雌の多産性は食べた餌の量に応じて高まり、餌の種類は関係ないと予測する。一方、共食いの質的利益仮説は、雌の多産性は同種の雄を食べた時により高まると予測する。実験結果に基づき、性的共食いの量的、質的な利益を明らかにし、性的共食いの進化要因について議論する。
本研究では、チョウセンカマキリ(Tenodera angustipennis)を材料として用いた。まず、性成熟に至るまでの餌の量と質が雌の多産性におよぼす影響を調べた。羽化2週間後の雌を、①非共食い群(コオロギを給餌)と②共食い群(雄カマキリを給餌)に分け、多産性の指標である肥満度成長(給餌による雌の肥満度の増加)との関係を調べた。次に、交尾の際に捕食する餌の量と質が雌の多産性におよぼす影響を調べた。成熟雌を、 [1]交尾時にコオロギを給餌、[2]交尾時に雄カマキリを給餌(性的共食い)、[3]交尾時に何も食べないに分け、その後は餌を与えずに産卵させた。産まれた卵しょうの質量を多産性の指標として、処理との関係を調べた。
これらの実験の結果、共食いの量的利益仮説は支持されたが、質的利益仮説は支持されなかった。この発見は、性的共食いの進化を理解するにあたり、共食いの利益を具体的に示す点で重要な意味を持つ。