| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-083 (Poster presentation)
人間活動は野生動物の生態系システムや生息地を破壊する要因とされ、人間との接触回避を目的とした夜間活動割合の増加や、利用できる空間の減少を招くことが指摘されている。野生動物の生息地管理を考えるために人為影響が及ぶ範囲を評価することは重要であるが、人為的干渉のタイプによってその範囲は異なる可能性がある。とくに、車両通行などの線的な人為的干渉は、狩猟などの面的な人為的干渉と比較して広範囲に影響が及ばない可能性があるが、その評価は十分に行われていない。そこで本研究では、同所的に生息するアカギツネ・タヌキ・ニホンテン・ツキノワグマを対象に線的な人為的干渉が活動時間に与える影響と、その影響の及ぶ範囲について評価することを目的とした。
調査地は冷温帯に位置する山形大学農学部附属上名川演習林周辺で、2019年7月から11月の間、車両通過頻度の異なる近接した2つの林道に計9台のカメラトラップを設置し、対象種を撮影した。各林道における車両の撮影頻度を人為的干渉の指標とし、撮影された対象種の画像から活動時間データを取得した。このデータを用いてカーネル密度分析により日周活動パターンを把握し、カイ二乗検定により林道間における昼・夜の撮影回数割合の違いを明らかにすることで、人為影響の活動時間への評価を行った。
解析の結果、通過車両の多い林道においてアカギツネ・タヌキ・ツキノワグマの夜間の活動割合は有意に高く、車両による人為的干渉が夜間活動割合の増加に影響することを示した。近接する林道間でこのような違いが見られたことから、車両による線的な人為影響は面的な人為影響と比較して近接的な範囲内に収まると考えられ、対象種の移動範囲を考慮すると個体が通過車両の多い林道を空間的に回避している可能性がある。これらの結果は、人為的干渉のタイプに応じた影響範囲の評価とそれを踏まえた生息地管理の重要性を示唆している。