| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-091 (Poster presentation)
トビは世界の猛禽類の中で最も個体数が多く、繁栄に成功した一種であるとされる。生息環境は海辺や山間部、市街地など幅広い。食性はジェネラリストで、屍肉を捕食するスカベンジャーであるが、ネズミなどの小動物を狩る姿もしばしば見られる。海辺では大きな個体群を形成し、時に人々が食物を奪われて負傷するといった事例もある。山間部においても帆翔する個体は多く見られるが、海辺と異なり、採餌の瞬間をあまり目にすることはない。そのため、山間部ではどういった環境で、どのような餌を利用しているのかを直接観察データに基づいて検証した例はほとんどない。
本研究では、愛知県北東部の標高約700 mの山村において、トビの採餌環境の選択性と、餌のサイズ・色、背景色による選好性を調査した。採餌環境は、ルートセンサスによって採餌行動 (探餌・捕食)の確認された地上部の各環境の利用割合を算出し、利用可能面積と比較して選好性を評価した。餌の選好性については、野外操作実験を試みた。草地内に餌台を設置し、様々なサイズ・色条件の冷凍マウスを供試してビデオカメラで撮影し、捕食された順にスコアを付けて検証した。
採餌環境として、4-9月には草地が選好された。これは、開けた環境で餌を発見しやすいこと、また草刈り後に小動物の死骸が出現することに起因していると考えられる。対照的に、10-3月には水田が選好された。これは、稲刈り後の水田が草地と同様に、開けた環境へと変化したためであろう。つまり、採餌環境の季節的変化は、人間の暮らしへの適応を示唆している。餌の選好性は、サイズが大きくなるほど高くなる傾向にあった。長時間の探索飛行というコストに見合う、利益の大きい餌から順に捕食すると考えられる。ただし、餌自体に色をつけた場合には全く捕食されず、背景色は緑・黄が選好される傾向にあった。背景色の結果は、夏季・秋季の草地の色彩と緑・黄が合致していたためかもしれない。