| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-094  (Poster presentation)

キシノウエトタテグモ(クモ目トタテグモ科)の捕食行動時における振動利用
Use of vibratory stimulation in predatory behavior of Latouchia typica (Araneae: Ctenizidae)

*中村頌湧, 徳田誠(佐賀大学・農)
*Shoyo NAKAMURA, Makoto TOKUDA(Saga Univ.)

 クモ類は、陸上生態系において最も適応放散した捕食者の一つである。その捕食様式は種によって様々であるが、造網性の種は振動感覚刺激、徘徊性の種は視覚刺激を捕食の際に利用することが知られている。しかしながら、原始的な種が多く含まれ、クモ類の捕食様式の進化や多様化を考える上で重要な地中性クモ類に関しては、捕食に利用する刺激についての知見が非常に少ない。
本研究では、地中性クモ類であるキシノウエトタテグモLatouchia typica(以下本種)が、捕食行動の際にどのような刺激を利用しているのかを検証するため、室内での感覚遮断実験を行った。
 塗料による眼部の被覆(目隠し)条件下で獲物となるハイイロゴキブリNauphoeta cinereaの幼体を実験容器内に投入し、本種の捕食行動を観察した結果、目隠しの有無により捕食成功率に有意差はなかった。このことから、本種は捕食行動時に視覚刺激は用いていないことが示唆された。一方、ゴム板を土表面に設置することによりハイイロゴキブリから発せられる振動を抑制した条件下では、除振しなかった場合に比べ、捕食率が有意に低下した。したがって、本種は捕食行動時に獲物を認識する手がかりとして、振動感覚刺激を利用していると考えられた。獲物から発せられる振動の特性を評価するために、レーザードップラー振動計(LDV)を用いて本種の巣穴に伝わる振動の時間軸波形と周波数を記録した結果、巣穴から半径約3cmの範囲において、175Hzと300Hzの二つの周波数のピークが確認された。これらの値は、先行研究で他のクモ類が知覚可能とされる周波数の範囲と一致しており、本種における獲物の感知に利用されている可能性があると考えられた。


日本生態学会