| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-101 (Poster presentation)
テリトリー性は、哺乳類から昆虫まで多くの動物が持つ性質である。動物はどのようにテリトリーを認識しているのだろうか。カザリショウジョウバエは、主にノアサガオの花にテリトリーを作り、野外での観察が容易である。また、モデル生物であるキイロショウジョウバエと近縁であり、様々な遺伝学的ツールを効率的に導入できると期待される。このことから私は、本種が動物のテリトリー認識の神経機構を明らかにする良いモデルとなり得ると考えた。これを解明するためには、まず彼らがテリトリー認識にどのような情報を使うのかを知る必要がある。そこで、本研究では本種のオスがノアサガオの花上のどこにテリトリーを持つのかについて、深層学習による画像認識システムであるDeepLabCutを用いて定量的な解析を行った。
ノアサガオの花は中心部が筒状のラッパ形をしている。野外で観察すると、本種のオスはこの筒状の部分、つまり花筒内で攻撃や求愛を行う傾向にあった。これを定量的に検証するため、野外で撮影された本種の行動動画について、DeepLabCutを用いて花弁の縁、中心、花筒、ハエをトラッキングした。オスが存在した位置と花筒の半径を比較すると、オスは花筒内部で有意に遍在していたことが分かった。また他のオスが花筒の内部に侵入すると、先住オスは侵入オスに攻撃した。このようなオス間闘争の多くの場合において、先住オスは侵入オスを追い出した。このことから、オスは花筒内を防衛すると考えられる。さらに、オスは花筒内部で有意にメスに求愛した。これらのことより、彼らが花筒内にテリトリーをもつことが定量的に示された。
本研究では、深層学習による画像処理を野外で撮影された動画に適用することで、本種が花筒内にテリトリーを持つことを初めて明らかにした。本研究で用いられた手法は、データロガーの利用が困難な小動物の野外行動を解明する上で有効な手段である。