| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-106  (Poster presentation)

人工哺育タヌキは野生下で生きられるのか?
Can hand-rearing raccoon dog survive in wild?

*宮本慧祐(東京農大・野生動物), 高井亮甫(東京農大・野生動物), 岡野貴大(東京農大・野生動物), 東野晃典(よこはま動物園), 石川真理子(夢見ヶ崎動物公園), 松林尚史(東京農大・野生動物)
*Keisuke MIYAMOTO(TUA, Wildlife), Ryosuke TAKAI(TUA, Wildlife), Takahiro OKANO(TUA, Wildlife), Akinori AZUMANO(Yokohama Zoo), Mariko ISHIKAWA(Yumemigasaki Zoological Park), Hisashi MASTUBAYASHI(TUA, Wildlife)

 タヌキ (Nyctereutes procyonoides)は、日本を含む極東アジアに広域分布する普通種である。山地から市街地まで様々な環境に順応しており、移入されたヨーロッパの国々においても分布を拡大させている。幼獣保護も毎年発生しており、人工哺育された後に放野されている。しかし、放野後にモニタリングした事例はなく、その生存の可否は不明であった。タヌキが広域に分布する適応性の高い種であることを考えると、本種の新奇環境への順応過程を調査することは生態を理解するうえで重要である。そこで本研究では、人工哺育個体4個体、比較対象の成獣である傷病個体4個体を調査対象とした追跡調査を行った。調査方法としてラジオテレメトリーおよびGPSテレメトリーを用いた。追跡個体の状態を確認するためにカメラトラップも用いた。
 人工哺育個体のうち2個体において、放野後の死亡が確認された。いずれも18日以上の生存が確認されているため、野生下において自力採食はできていたといえる。
最大を100日間とした生存日数を目的変数とした結果、最適回帰モデルとして「人工哺育」の有無と「体重」が説明変数として選択された。発信器脱落により100日間の追跡ができなった傷病個体1個体を除き、ここから重回帰分析を実施したところ、決定係数に関する有意差検定は0.5%水準で有意であり、「体重」の増加により生存日数の増加が見込まれる結果となった。「体重」の推定値は0.0358 (95%CI [0.005539156, 0.06605959])であった。「人工哺育」の有無は有意水準を満たさず、影響は認められなかった。
 また人工哺育個体においてタメフン場利用、ペア形成が確認され、先住個体から資源および環境の情報を得ていることが示唆された。タヌキの環境へ順応する能力は生態的特徴である情報共有によって成立すると考えられる。


日本生態学会