| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-108  (Poster presentation)

コバントビケラAnisocentropus kawamurai 幼虫の餌、および巣材選択性に関する研究
Study on food and nest material selectivity of Anisocentropus kawamurai larvae

*野本将太郎, 河内香織(近畿大学)
*Shotaro NOMOTO, Kaori KOCHI(Kindai Univ.)

コバントビケラは、アシエダトビケラ科 Calamoceratidae Ulmer の一種である。落葉を小判型に切り取り、2枚重ねて巣をつくるのは、コバントビケラ属のみにみられる特徴である。流れが緩やかな止水域を好んで生息している。奈良県では準絶滅危惧種に指定されている。またそのほかでは、埼玉県でも準絶滅危惧種、群馬県では絶滅危惧Ⅰ類に指定されている。本種の生態に関する研究は乏しく、日本国内にはコバントビケラとウスイロコバントビケラ A. pallidus 、ニシキコバントビケラ A. magnificus の3種が生息していることがIto et al.(2012)の分類によって明らかになった。本研究の対象は、後脚脛節にある帯状の斑紋数からコバントビケラであると断定した。
石井ら(2016)では、 水質が良く、河川改修が行われていない環境にもかかわらずコバントビケラの生息が確認できなかった地点があり、その理由として、川沿いに針葉樹林が優占しているため、本種が営巣に用いる広葉樹の落葉の供給量が少なく、 結果的に生息が制限されているのではないかと推測している。
本研究では、1齢から終齢幼虫まで通じて飼育実験を行い、本種の成育に適した硬度の樹種を提案した。用いた樹種はイロハモミジ、ケヤキ、アラカシ、ヤブツバキの4樹種で、すべて本種の生息地から採集したものを用いた。
1ヶ月毎(9・10・11月)の結果から、落葉硬度と落葉残存率、摂食率、巣材使用数、それぞれの相関を求めた。落葉硬度と落葉残存率は、強い正の相関を示した。摂食率は1~2齢幼虫にあたる9月のみ、すべての樹種で負の値を示した。これは若齢幼虫の菌食性を示唆している。10・11月は共通してモミジが最も摂食された。モミジは4樹種中、最も硬度が低かった。
巣材に用いた樹種は、幼虫が成長するにつれて変化した。常緑広葉樹であるアラカシとツバキの使用数は、他の2樹種に比べて優位に低かった。巣材として幼虫が好む落葉の成分、厚さが硬度以外にも影響を及ぼしている可能性がある。


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