| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-111 (Poster presentation)
ナミアゲハ(Papilio xuthus, 以後アゲハ)はヒトに赤くみえる花をよく訪れると言われている。しかし、彼らが野外で実際に訪れる花とその季節変化については未だよくわかっていない。そこで野外観察と体表付着花粉の分析から、訪花植物とその季節変化について調べた。
観察と採集は、三浦半島武山の麓にあるみかん園と周辺の里山で2019年の4〜6月にかけて行った。野外観察(7〜18時, 30分毎, 計13日)の結果、79個体のアゲハを観察し、そのうち3個体の訪花(シチヘンゲ5回, ミカン1回) を記録した。また、同時期に採集したアゲハ36個体(11日分)をショ糖溶液内で撹拌して体表付着花粉を洗い出し、形態分類とDNA解析を行なった。形態分類では76の分類群(種20, 属3, 科11, 不明42)を同定し、個体あたりの花粉数は1410 ± 290.3個と推定した。さらに、DNA分析では花粉から抽出したDNAの2領域(ITS1, ITS2)の配列を決め、その相同性から131の分類群 (種48, 属72, 科11)を同定した。
体表花粉相と採集日の関係をみるため、個体ごとに形態とDNAで同定した分類群の在不在データをプールし、k-means法(k=3)で解析したところ、花粉相は4月18日〜5月13日, 5月31日, 6月5〜20日に分かれた。さらに、各クラスターの指標種をIndval法で求めると、最も指標指数が高い花はそれぞれアブラナ属 sp., ネズミモチ, サンゴジュだった。
花粉分析では訪花観察より多くの分類群を同定でき、そこにはヒトには赤く見えない花が数多く含まれていた。このことはアゲハの訪花を明らかにする上で、花粉分析が有効であることを示している。また、体表花粉相は採集時期の影響を強くうけ、アゲハが利用する花は2ヵ月の間に大きく変わることがわかった。