| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-113  (Poster presentation)

ヒグマの掘り返しは細根バイオマスと土壌栄養塩の減少を介し林冠木の成長を低下させる 【B】
Brown bear digging decreases the growth of canopy trees via reduction in fine root biomass and soil nutrients 【B】

*富田幹次, 日浦勉(北海道大学)
*Kanji TOMITA, Tsutom HIURA(Hokkaido Univ.)

多くの哺乳類は、採食や営巣のために地面を掘り返す。掘り返しは、土壌の物理的・化学的性質を変えることで、植物の成長に影響する。先行研究により、掘り返しは、草本植物や樹木の実生といったサイズが小さい植物の成長を変えることが分かっているが、サイズの大きな林冠木の成長に影響するかどうかは全く調べられていない。この研究では、知床半島のヒグマによるセミ幼虫を採食するための掘り返しが、林冠木の直径成長におよぼす影響を明らかにすることを目的とした。先行研究より、ヒグマはカラマツ人工林で頻繁に掘り返すことが分かっているため、対象樹種はカラマツとした。
現地記録よりヒグマが掘り返しを始めた年を特定したカラマツ人工林5地点を掘り返し区として設定し、各地点に近接した掘り返しがみられないカラマツ林を対照区とした。掘り返し区と対照区のカラマツ成木それぞれ50本を対象に、成長錐を使ってコアサンプルを採取し、個体ごとの直径成長量を調べた。また、掘り返し区と対照区における土壌養分や細根バイオマスを比べた。
対照区と比較して掘り返し区のカラマツの直径成長量は、掘り返しの始まった年から有意に低下した。掘り返し区では土壌の無機態窒素濃度と水分量、カラマツの細根バイオマスが低かった。
これらのことより、ヒグマの掘り返しは、①土壌養分の利用可能量を減らすことで植物の生育環境を変えること;②細根バイオマスを減らすことで土壌養分の吸収能力を低下させることによって、カラマツ林冠木の直径成長量を低下させることが示唆された。本研究は、哺乳類の掘り返しが林冠木の成長に影響することを初めて明らかにした。


日本生態学会