| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-114  (Poster presentation)

葉緑体を「盗む」ウミウシとそのエネルギーを「盗む」寄生者
Sea slugs that "steal" chloroplasts, and parasites that "steal" energy

*三藤清香, 遊佐陽一(奈良女子大学)
*Sayaka MITOH, Yoichi YUSA(Nara Women's University)

嚢舌目のウミウシは、食藻の葉緑体を体細胞に取り込み光合成を行う盗葉緑体現象で知られており、食藻を消化して得るエネルギーと光合成で得るエネルギーの両方を利用する、生物界でも稀な混合栄養生物であるといえる。盗葉緑体生物が、その餌となる下位の栄養段階の生物に与える影響については判明しているが、盗葉緑体生物と上位の栄養段階の生物(捕食者や寄生者)の相互作用については研究例が無い。それゆえ盗葉緑体生物の光合成が上位の栄養段階の生物の生活史に影響を及ぼすかどうか、光合成を行う生産者としての嚢舌目が生態系内でどのような役割を果たしているのかは未知である。上位の栄養段階の生物に対する嚢舌目の光合成の影響を評価するため、そして同じく未知である嚢舌目に対する寄生者の影響を評価するために、本研究ではクロミドリガイ Elysia atroviridisとその内部寄生者である未記載種のカイアシ類 Arthurius sp.を用いた。寄生の有無と光強度(ウミウシが十分に光合成を行える強光、もしくはほとんど行えない弱光)を組み合わせた4条件下でクロミドリガイを10週間飼育し、クロミドリガイおよびカイアシ類の生活史形質(生存・成長・産卵)の変化を測定した。実験の結果、カイアシ類の寄生によってクロミドリガイの生存率の上昇および湿重の増加が見られ、一方で産卵量は減少した。このことから、カイアシ類がクロミドリガイの繁殖成功に負の影響を与えていること、つまりクロミドリガイとカイアシ類の関係が「寄生」であることが初めて明確に示された。また、強光条件ではカイアシ類の成長と産卵量が増加したことから、嚢舌目が光合成できる条件下では寄生者が生活史形質に正の影響を受けることが示された。本研究は、盗葉緑体生物の光合成がその消費者の適応度に利益をもたらす可能性が実験的に示された初めての例である。


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