| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-116 (Poster presentation)
ササは日本各地の林床で優占する植物であり、他の動植物との間で様々な相互作用を生じている。そのため、ササで広域的に見られる“超”長期的に1度の一斉開花・結実を伴う枯死現象は、林床を中心とした森林一帯の一大イベントであり、その生態系に極めて大きな影響を及ぼすものと予想される。愛知県北東部にはスズタケ (Sasa borealis) が分布し、2017年をピークにこの現象 (文献上、約120年ぶり) が起こった。そこで演者らは、スズタケ一斉開花・結実・枯死地に哺乳類の移動を制限する試験地を設置し、スズタケの更新状況と、それに及ぼす哺乳類の影響について、実証モニタリングを試みている。2018年までの調査によって、スズタケの種子は結実の翌年から発芽し始めること、アカネズミ属の野ネズミが増加することが確認されている。本報ではその後 (2019年) の結果を示す。
2019年におけるスズタケ発芽数は、調査区全体で1,239個体 (52.7個体・m-2) であり、77個体だった2018年に比べて大幅に増加した。この結果から、多くのスズタケ種子の休眠打破には2度の冬季が必要であることが推察された。発芽のピークは、2018年と同様に8月中旬から9月下旬で、他のササ種よりも明らかに遅かった。また、2018年に発芽した個体の6割程度が2019年 (2年目) に分枝しており、数個体では新たな出稈が見られた。2年目の稈長に関しては、2019年の当年生個体に比べて約2 cm長かった程度であった。これらの成長過程は、過去に一斉枯死したチュウゴクザサ (S. veitchii) 等と異なり、伸長量が小さく、稈数は少ない結果となった。一方、一斉結実後に大発生した野ネズミは、2019年においても概ねその個体数を維持していた。また、野ネズミの侵入を排除した区画内の発芽数が対照区に比べて多い結果が得られ、野ネズミによるスズタケ種子の採食が示唆された。さらに、2019年のカメラトラップ調査において、ニホンジカによる地面探索行動が見られるようになり、一部の実生の採食も確認された。