| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-117 (Poster presentation)
植食性昆虫の地理的集団が異なる寄主を利用している場合、寄主利用能力に関する局所適応が生じることがあり、これは隔離障壁のうち“移入者の生存不能”の発達とほぼ同義である。一方、植食性昆虫では、地理的距離とはやや独立に、異なる寄主の利用に伴って強い生息場所隔離が発達するという報告がある。よって、異なる寄主を利用する能力に関する局所適応は、異所的条件下で潜在的に生殖隔離が発達する過程であると捉えられる。
ヤマトアザミテントウ(以下、ヤマト)はアザミ類を寄主とするスペシャリストであるが、その分布域を俯瞰すると、寄主とするアザミの種は地域間で異なっている。さらに、アザミ類は種間・種内変異に富むことが知られている。本研究では、ミネアザミ(以下、ミネ)を寄主とする青森集団とナンブアザミ(以下、ナンブ)を寄主とする岩手・山形・福島集団を対象に、成虫の摂食選好性と幼虫の成育能力を実験条件下で査定し、局所適応が生じているのかを検討した。
青森集団とナンブを寄主とする3集団との比較では、全集団の雌成虫がナンブの産地に関わらずナンブに強い選好性を示した。一方、ミネ上での幼虫の成育は青森集団で良好であったのに対し、ナンブを寄主とする3集団では悪化した。以上より、青森集団でのみ局所適応が示唆された。ナンブを寄主とする3集団間の比較では、山形・福島集団の雌成虫が岩手ナンブよりも自身の寄主を好んだ一方で、岩手集団の成虫は明瞭な選好性を示さなかった。また、福島集団の幼虫の成育は自身の寄主上で他集団と比較して良好であった。よって、福島集団でのみ自身の寄主への弱い選好性を伴う局所適応が示唆された。
以上の結果は、ヤマトでは非対称な局所適応が別種から同種のアザミ集団レベルにまで生じていることを強く示唆している。その様相に基づいて、潜在的な移入者の生存不能と生息場所隔離の発達による生殖隔離の成立条件について考察する。