| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-121  (Poster presentation)

融雪剤散布の影響は植物を介して昆虫まで作用するのか
Does road salt application affect herbivorous insects through host plants ?

*寺嶋公紀(弘前大・院・農生), 川瀬陽平(オハヨー乳業(株)), 山尾僚(弘前大), 野田香織(弘前大), 杉山修一(弘前大), 東信行(弘前大), 池田紘士(弘前大)
*Hiroki TERAJIMA(Grad. Sch. Hirosaki Univ.), Youhei KAWASE(OHAYO DAIRY PRODUCTS CO., LTD.), Akira YAMAO(Hirosaki Univ.), Kaori NODA(Hirosaki Univ.), Shuiti SUGIYAMA(Hirosaki Univ.), Nobuyuki AZUMA(Hirosaki Univ.), Hiroshi IKEDA(Hirosaki Univ.)

日本の多雪地域では、冬期に大量の融雪剤(凍結防止剤)が幹線道路を中心に散布される。特にNaClに関しては、安価であり効果の持続性も高いという観点から、多くの自治体で融雪剤として採用されている。しかしながら、こういったNaClの散布は、本来ではあり得ない量のNaを大量に環境中へ導入することで、野外に人工的な高Na環境を形成することになる。しかし、このNaClが野外の生物に与える影響について調べた例はほとんどない。そのため本研究では、融雪剤として散布されるNaCl が生物間相互作用に与える影響、とりわけ植物と昆虫の相互作用への影響について検証した。材料には、イタドリとクロヤマアリを用いた。この二種の間には、アリはイタドリの花外蜜を利用し、イタドリはアリに植食者を撃退してもらうという、相利共生関係が知られている。このため本研究では、融雪剤の散布開始前(9月)と散布終了後(4月)にイタドリの葉と花外蜜およびクロヤマアリを採集し、Na含有量を測定した。採集は国道7号線沿いの4つの調査地で行い、各調査地では道路から0~250mの範囲で3つの調査地点を設けた。この調査の結果、イタドリの葉と花外蜜およびクロヤマアリの全てにおいて、融雪剤の散布直後である春先に、道路に近い地点でNa含有量が多いことが明らかとなった。また、低Na環境下に生息するアリはNaを選択的に採餌することが知られている。このことから、Naを高濃度で含むイタドリ花外蜜にはアリが多く誘引される可能性がある。この可能性を検証するために、異なる量の融雪剤を散布したイタドリを27株栽培し、融雪剤の散布量と散布開始からの日数に応じてアリの誘因数が変化するかどうかを検証した。その結果、散布開始からの日数が伸びるにつれ、アリの誘因数が増えるという結果が得られた。これらの結果から、融雪剤散布によってNaが植物や昆虫に蓄積し、さらには昆虫と植物の相互作用にも影響を与える可能性が示された。


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