| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-129  (Poster presentation)

高山生態系における送粉ネットワークの季節変動と植物の繁殖成功度
Seasonal variations in plant-flower visitor interactions and reproductive success of alpine plants.

*大室諒太(東京農業大学大学院, 林学専攻), 武生雅明(東京農業大学, 地域環境科学部), 亀山慶晃(東京農業大学, 地域環境科学部)
*Ryota OMURO(Graduate school of TUA, Forest Science), Masaaki TAKYU(Tokyo Univ. of Agriculture, Regional Environment Science), Yoshiaki KAMEYAMA(Tokyo Univ. of Agriculture, Regional Environment Science)

多くの高山植物は、平均気温や積雪量といった気象条件によって分布が規定される。しかし、蛇紋岩などの特殊岩地が分布する場所では、基岩の化学性によって低標高であっても高山帯の風衝草原に類似した植物群落が成立する。その様な環境下でのポリネータの組成や高山植物の繁殖成功については不明な点が多い。本研究では、亜高山帯の蛇紋岩地における送粉と植物の繁殖成功度に着目し、(1)ポリネータ組成とその季節変動、(2)ポリネータの訪花活性の変化が植物の繁殖成功度に与える影響について検討した。
長野県北アルプス八方尾根周辺(標高2000m)には、蛇紋岩の影響による風衝草原が広く分布している。150 m×130 mの調査区において、虫媒花植物の組成が明瞭に異なる3つの植物群落(ミネウスユキソウ群落、オオコメツツジ群落、キンコウカ群落)を対象に、開花フェノロジーとポリネータ組成を観察した。また、調査区内に優占する虫媒花植物を20種選定し、それら植物のポリネータ組成をクラスター解析する事で媒介者タイプに区分した。さらに、12種については花粉の付加実験を行い、花粉制限の程度を推定した。
観察されたポリネータは45種、1993個体で、個体数の大半をハチ目(50.7%)とハエ目(44.6%)が占めた。ハチ目の中では単独性ハナバチが58.1%、社会性ハナバチが17.6%で、前者が季節を通じて出現していたのに対し、後者には季節的な偏りが認められた。花粉制限は12種中3種でのみ確認され、開花期や媒介者タイプによる偏りは認められなかった。
既往研究と比較すると、ポリネータの組成は亜高山の報告と類似していた。しかし、ポリネータの観察頻度(個体数/単位時間)は、高山および亜高山の報告と比べて著しく低かった。それにもかかわらず、花粉制限を受けている植物種は少なかった。それらの理由については、蛇紋岩地に特有の要因(繁殖保証や資源制限など)があるのかどうか、さらに検証が必要である。


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