| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-136  (Poster presentation)

花食者ゴマシジミの摂食に対する宿主植物の種子繁殖補償の集団間および経年比較
Comparison among populations and years of seed reproductive compensation in host plants for feeding of floral herbivore Phengaris teleius

*内田葉子, 大原雅(北大・院・環境科学)
*Yoko UCHIDA, Masashi OHARA(Hokkaido Univ. Env. Science)

 植物の防衛戦略の1つに、食害後に成長や種子生産の低下を補う「補償反応」が存在する。ナガボノシロワレモコウ(以下、ナガボ)は、個体当たり複数の穂状花序(花穂)を付ける多年生草本で、ナガボの植食者ゴマシジミはナガボの花穂に産卵し、幼虫は子房や胚珠を摂食する。これまでの研究から、ゴマシジミはナガボの茎頂部の花穂に産卵する傾向があること、茎頂部が摂食されたナガボ個体では摂食されていない花穂で生産果実数が増加することにより、個体レベルの果実生産の補償が起きていることが確認された。
 本研究では、ナガボの補償反応について経年(北広島集団3年間)および集団間(北海道内8集団)での比較を行った。各集団におけるナガボの形態、開花時期、果実数およびゴマシジミによる被食率を調査した。経年比較では、年によってナガボの形態は大きな変動はなかったが、開花時期は異なっていた。一方で、結果率および生産果実数は年による変動が大きかった。さらに、ゴマシジミによる摂食圧が同じでも、結果率が低かった年では補償反応(摂食されていない花穂での果実数増加)が認められなかった。このことから、同じ集団でも結果率が低い年では、摂食のない花穂でも個体レベルの果実生産を補えるほどの果実を生産できず、その結果、補償反応は確認されなかったのだと考えられる。
 集団間比較では、ナガボの形態、開花時期、結果率、生産果実数は集団によって異なっていた。調査集団の内、5集団では先行研究と同様に、ゴマシジミに茎頂部を摂食されたナガボ個体で補償反応が確認された。しかし、残りの3集団ではゴマシジミの摂食に対する補償反応は認められなかった。補償反応が認められなかった集団では、経年調査の結果と同様に結果率が低かったことが補償反応の有無に影響したと考えられる。
 以上のことから、ナガボの摂食に対する補償反応は、年および集団によって異なることが分かった。


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