| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-140 (Poster presentation)
従属栄養生物である菌類は、遺体や排泄物の分解によって栄養を得る腐生だけでなく、宿主から栄養を搾取する寄生や、宿主と相互関係を維持しながら生活する共生など、多様な生活モードを持つ。共生の一様式として、宿主植物の組織において病気を起こすことなく生活する内生が知られている。様々な植物の健全な組織から、これまで腐生菌あるいは寄生菌として知られていた菌類が検出される例もあり、これらの菌類は生活環のなかで複数の生活モードを切り替えながら生活していることが示唆された。しかし、生活モードの変化に伴う菌の生態の変化についての知見は不足している。
多くの菌類は植物と密接に相互関係していることから、森林生態系に関する基礎知見として、その生態を解明する必要がある。
そこで本研究では、複数の生活モードが示唆される菌の生態およびライフサイクルの解明を試みるべく、ホオノキの落葉に子嚢盤(きのこ)を形成するPyrenopeziza protrusaに着目した。本菌の子嚢盤はほぼ全てのホオノキの落葉に見出されることから、落葉前の葉に内生している可能性がある。また、宿主のホオノキは一年で展葉と落葉を繰り返すため、生葉および落葉における本菌の生態の両方を把握できる。以上の点から、本菌とホオノキは研究目的に適した材料であると考えられる。
ホオノキの葉からの菌糸の分離と、種特異的プライマーを用いた本菌のDNAの検出・定量、そして観察により試みた結果、本菌は春~夏にかけて生葉で内生しているが、秋の落葉を期に腐生へと生活モードを変化させると、急激に増殖して翌春に落葉上で子嚢盤を形成することが示された。成熟した子嚢盤から放出された子嚢胞子は、空気を介して新葉に感染すると推察される。本菌は根からも検出され、葉だけでなく根でも内生していることが示唆された。
以上により、本菌は季節と宿主の状態に応じて複数の生活モードを切り替える能力(多能性)を有することが明らかになった。