| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PA-142 (Poster presentation)
特定の餌分類群を利用する狭食者は,種によって様々な偏食傾向を示すほか,成長段階に応じて偏食傾向が変化する場合もある.演者らは,同所的に生息するクモ食性種であるヤリグモ・オナガグモ・ムナボシヒメグモ(いずれも粘球糸型)・ヤマトカナエグモ(咬み伏せ型)の4種を対象とした野外調査により,ヤマトはいずれの成長段階においてもクモのみを餌とするが,他の3種は体サイズの小さな幼体期に昆虫も捕食していること,またムナボシ幼体のクモ食率はヤリ・オナガに比べて顕著に低いことを明らかにした.これは,狭食者間における偏食傾向のばらつきを示す一例だが,その要因を明らかにした事例は乏しい.そこで本研究では,1.潜在的餌組成と2.捕食者の捕獲形質に注目し,それらが捕食者の偏食傾向に与える影響を検証した. まず,前述のクモ4種のうち,クモ食率100%であったヤマトを除いた3種の現実的餌組成を餌の網型や行動といった生態的形質によって分類した場合,種間で顕著に異なっていた.そこで,餌の生態的形質によって分類した場合に,潜在的餌組成がクモ食率に与える影響を解析した.その結果,同一の潜在的餌組成であっても,それらを構成する餌生物がクモ食率に与える影響はヤリ・オナガ・ムナボシの間で異なっており,例えばクモ糸にぶら下がる昆虫類の個体数はヤリのクモ食率に負の効果を示すが,ムナボシのクモ食率には影響しないことが分かった.次に,捕獲形質について,咬み伏せ型の種は糸を用いる種に比べて捕獲可能な餌分類群が狭いと予想し,咬み伏せ型のヤマトと粘球糸型のムナボシを対象に餌受容性実験を行なった.その結果,ヤマトは餌種がクモであれば全て受容したが,昆虫は拒否した.一方,ムナボシはクモと昆虫のいずれも受容した.以上から,狭食者間における偏食傾向の差異には,捕食者の捕獲形質や,潜在的餌組成から受ける影響の差異が関与していることが示唆された.