| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PA-143  (Poster presentation)

急速な青色化・緩慢な褐色化-ホソミオツネントンボの可逆的体色変化-
To be blue or not to be -reversible body color change of Indolestes peregrinus-

*長谷部有紀, 横井智之(筑波大・保全生態)
*Yuki HASEBE, Tomoyuki YOKOI(Univ. of Tsukuba)

 トンボ類の体色は種によって様々で、捕食者回避や同種間認識、体温調節などの役割をもつ。体色が変化する種もみられ、多くは成熟に伴って一方向的に変化する。ただし一部の種では、可逆的に体色が変化する。ホソミオツネントンボは雌雄ともに、可逆的体色変化が起こることが知られている。前年に羽化して成虫越冬した個体は、春になり気温が上がると体色が褐色から青色に変化する。日中は青色であった個体も、気温が下がる夜間には再び褐色になる。本種の体色がもつ役割として、褐色には捕食者回避や体温上昇の促進が、青色には同種間認識やオーバーヒート抑制の役割が推測されている。しかし、体色変化にかかる時間と気温や性差との関係、体色と体表温度の関係などについては、定量的な検証がなされていない。そこで本研究では、体色の役割を解明するために、体色と温度の関係を明らかにすることを目的とした。まず、10℃条件で褐色にした個体を4つの異なる温度条件(15℃・20℃・25℃・30℃)に置いた場合と、各温度条件の個体を10℃に置いた場合の体色変化を一定時間ごとに記録し、青色化と褐色化にかかる時間を調べた。次に、褐色および青色個体の標本を太陽光に当て、体表温度をサーモグラフィで撮影し、体表温度を体色間で比較した。その結果、青色化は数分で完了し、褐色化は数時間かかった。体色変化の時間には性差があり、オスはメスよりも速く青色になるが、褐色に戻るのは遅いことがわかった。また、青色と褐色間で体表温度に違いはみられなかった。以上より、体色が体温調節の役割をもつとは考えにくい。また、野外の気温変化と照合すると、青色化は日中の活動開始直後に完了し、オスがより長く呈示していることから、繁殖行動や縄張り争いといった同種間認識に関係している可能性がある。一方、褐色化は完了時間が遅いため、明け方にのみ捕食者回避の効果をもつと考えられる。


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