| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PB-149  (Poster presentation)

サクラマスの河川残留型と降海型は幼魚期においてすでに生態が異なるのか?
Do the ecology of residential and migratory form in Masu salmon(Onchorynchus masou) already differ in juvenile stage?

*二村凌(北大 環境科学院), 森田健太郎(北海道区水産研究所), 菅野陽一郎(コロラド州立大学), 岸田治(北大 北方圏 FSC)
*Ryo FUTAMURA(Hokkaido Univ.), Kentaro MORITA(FRA), Youichiro KANNO(Colorado State Univ.), Kishida OSAMU(FSC,Hokkaido Univ.)

個体の一生において死亡のリスクは一定ではない。親離れしたばかりの幼少期や、成長のために盛んに餌を取る時期など、種による違いこそあれ、個体には著しく死亡率の高い生活史ステージが存在する。このような危険なステージでは、個体は小さいほど死にやすいサイズ依存の選択圧に晒される。個体が成長を早めることで、危険を回避するのに十分なサイズに早く到達することは、サイズ依存の死亡を免れるための有効な戦術である。成長にはコストを要することから、このような成長戦術は「危険なステージに移行する前」に存在すると考えられる。
サクラマスには回遊型と残留型の生活史二型が存在する。海洋における回遊型の死亡率は著しく高く、その上、回遊型は降海した直後に小さいほど死にやすいサイズ依存の選択圧に晒される。本研究では、海洋での回遊時期を危険なステージとみなし、回遊型の個体は降海の前にサイズ依存的な成長戦術をとるのかを検証した。
研究は北大苫小牧研究林を流れる幌内川で行った。2018年の秋にPITタグにより個体識別した680匹のサクラマスを翌年秋まで追跡し、冬期間の成長や、降海の有無とタイミングなどを調べ、以下の2つの予測を検証した。予測①残留型と比べて回遊型では、降海前の秋の時点でサイズの小さな個体ほど、冬期間によく成長する。予測② 回遊型において、降海直前の春の時点で小さな個体ほど、降海日が遅い。(小さな個体は降海を遅らせることで、川での成長期間を長くする)
結果のパターンはいずれの予測も支持しており、サクラマスの回遊型の個体は降海前にサイズ依存的な成長戦術をとることが確かめられた。本研究により、生物には危険なステージに移行する前に、個体が自身の状態に応じた成長戦術をとる種がいることがわかった。生物が特定のステージで示す生活史形質や行動の状態依存性は、その後のステージで受ける選択圧によって形作られた戦略として解釈できるかもしれない。


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