| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PB-150 (Poster presentation)
Partial migrationとは,個体群内に移住を行う個体と行わない個体が共存する移住多型現象であり,多くの動物分類群で見られる.Partial migrationは成長や繁殖などの生活史形質と密接に関連する適応戦略であることから,その究極要因を明らかにすることは,生活史進化の理解に寄与する.Oncorhynchus masou ishikawaeは世界最南限のサケ科魚類であり,海に降下して成長し再び河川を遡上する降海型のサツキマスと,一生を河川で過ごす残留型のアマゴが同一個体群内から出現する.分布の南限地域では,水温や移住距離に関して回遊コストが高いことが予想され,降海型には強い選択圧がかかると考えられる.そのため,他のサケ科魚類と比較して,本種の回遊多型にはより強い遺伝基盤の存在が示唆される.そこで本研究では,和歌山県有田川上流の個体群から降海型と残留型,合計98個体を対象にRAD-seq法により得たゲノムワイド一塩基多型(SNP)を用いて,回遊多型と関連するゲノム領域を探索した.解析では,近縁種のゲノム情報を参照してショートリードに基づくアマゴのドラフトゲノムを新規に構築し,リファレンス配列とした.RAD-tagのマッピングより得られた9,778個のSNPを用いて,ゲノムワイド関連解析を行ったところ,回遊多型と強い関連を示す11個のSNPを見つけた(P < 6.0×10-6, Bonferroniの補正後).現在,さらに解析を進めており,本発表では,(1) 回遊多型と有意な関連を示すSNPの近傍に存在する機能遺伝子のリストや,(2) 最も関連の強かったSNPについて,他の河川流域や養殖個体群におけるスクリーニングの結果を報告する予定である.それらの結果に基づき,分布域南限のサケ科魚類に見られるpartial migrationの遺伝基盤について議論する.