| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PB-166 (Poster presentation)
高山生態系は、気候変動や環境変化に対して最も脆弱な生態系の一つである。気候変動は、融雪時期の早期化、生育期間の延長、生育期の温度上昇をもたらし、世界各地の高山生態系において急速な植生変化が生じていると報告されている。雪解けが早まると生育期間が延長され、ハイマツなどの低木種が侵入する可能性があることから、雪解けのタイミングによる植生の変化が多くの研究で注目されている。また、雪解けの早期化は、土壌の乾燥化を助長させ、ササや木本種などの低地植生の分布を高標高域に拡大させていることが先行研究により指摘されている。
日本の高山地帯は世界的に見ても積雪量が多い地域である。本研究で対象とした、青森県八甲田山域は、さまざまな固有植物が自生する数多くの湿原が点在している。しかし、このような山岳湿原において、雪解け時期の変化が植物の種多様性および群集構成に与える影響はあまり明らかにされてこなかった。
本研究では、同一湿原における雪解け時期の違いと植物群集および環境要因の関係を明らかにすることを目的とした。積雪深は、共同研究者によって推定されたデータを使用し、雪解け時期は地温センサーを用いて測定した。このデータを基に本研究では、湿原内の際に2m×10mのプロットを60か所設置し、植物の種数・被度および環境要因(pH, EC, 土壌水分)の測定を行った。
雪解け時期と湿原内の環境要因の関係を単回帰分析によって解析した結果、雪解け時期の早期化と土壌水分に有意な負の相関がみられた。また、雪解け時期や環境要因を説明変数、植物群集を応答変数とした重回帰分析の結果、雪どけ時期が遅い地点ほど、植物群集のシャノンの多様度指数が高くなる傾向があることが明らかとなった。このことから、雪解け時期の早期化は土壌水分を減少させ、植物群集を単調化させる可能性が示唆された。