| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PB-169 (Poster presentation)
昨今、生物多様性の減少が世界的に問題となっており、数ある生態系の中でも特に淡水生態系における生物の絶滅速度が大きいとされる。淡水生態系にはため池生態系が含まれ、浅い水深や水生植物の多さから様々な生物の生息地となっており、最も生物多様性に富む水域とも言われる。トンボ目はため池生態系を利用する生物群の1つであり、幼虫期、成虫期ともに食物網の上位に位置するため注目されることが多い。しかし、トンボ目が産卵等に利用するため池は消失や劣化が急速に進んでおり、トンボ目の保全のために効率的なモニタリングツールの開発が急がれる。
一般的にトンボ目等の水生生物の目視、捕獲による調査は経験やコストが必要となり、種の網羅的な調査は困難とされている。そこで、従来法の弱点を克服し、簡便、迅速に対象分類群の広範囲にわたるモニタリングを可能にする環境DNAメタバーコーディングに着目した。しかし、メタバーコーディングの使用にはDNAデータベースの不足が制限となることが多くの研究で指摘されている。日本生息のトンボ目について、CO1領域の配列情報は充実している一方で、メタバーコーディングに適しているとされる12S領域の配列情報は少ないという現状 がある。よって本研究ではトンボ目メタバーコーディングの野外適用に向けて、調査地の兵庫県周辺に生息する種を中心にトンボ目各種の個体サンプルからDNAを抽出し、トンボ目12Sの配列情報データベースを拡充した。 兵庫県内のため池100地点から得られた環境DNAサンプルを解析すると、検出されたASVのうち種同定ができた数は拡充の前後でおよそ1.5倍に なり、種同定できなかったものはほとんどなくなった。このことから、メタバーコーディングが野外でのトンボ目多様性のモニタリングに有用な可能性があること、メタバーコーディングによる生物多様性モニタリングにデータベースの拡充が重要であることが示された。