| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PB-173 (Poster presentation)
高山・亜高山帯の湿原生態系は環境変化等に対して脆弱であるため、生物多様性保全対策の実施は急務である。適切な保全対策を実施するためには、種多様性の情報だけでなく、遺伝的多様性の情報も利用することが望ましい。そこで本研究では、同一地域内の複数湿原を対象として、種および遺伝的なα・β多様性の情報を取得し、その分布を比較解析することで、双方の多様性を考慮した湿原生態系の保全対策を検討した。
研究対象として、青森県北八甲田山系に点在する20湿原を選定した。種多様性の情報としては、植生調査によって群集内の種数、優占度を調べた。このデータに基づいて、群集間の種組成の非類似度を算出した。遺伝的多様性情報としては、優占種11種を各湿原につきそれぞれ8個体採取し、ゲノム縮約解析であるMIG-seq分析に用いた。得られた一塩基多型データから、種ごとに集団内の遺伝子多様度と集団間の遺伝距離を算出した。これらのデータを用い、α・β多様性の関係を解析した。
群集内の種数は16〜36種で、pHが高い湿原ほど種数が多かった。群集間の種構成の違いは、地理的に離れた群集間で増大した。また、集団内における遺伝的多様性は、湿原の数的密度が低い湿原集団ほど種間のばらつきが大きかった。集団間の遺伝的分化のパターンは多くの種で共通し、地理的な位置を反映した遺伝的集団構造が示された。これらの種・遺伝的多様性の分布を比較すると、α多様性である湿原内の種数と遺伝子多様度の間には有意な関係が認められなかったが、β多様性としての種多様性(湿原群集間の種構成の非類似度)と遺伝的多様性(湿原集団間の遺伝距離の種間平均値)との間には有意な正の相関が認められた。これらのことから、本研究対象地における保全対策としては、まず種・遺伝的なβ多様性に基づく保全単位を設定し、その上でα多様性を考慮した評価を勘案することが適切であると考えられた。