| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PB-175 (Poster presentation)
過去生態系の情報は生物多様性の保全や復元にとって重要であり、過去の情報を得るための手法としては生物の遺骸、化石や休眠卵などを用いる方法が挙げられる。直接、過去の生物痕跡を観測することは記録されていない情報を得ることができるため有用であるが、生物種の同定が困難な分類群などに課題が残る。しかし、堆積物中に残るDNAを用いることでそのような課題を克服できる可能性があり、近年植物や微生物を対象としてDNA情報を用いた過去復元も行われている。その一方で遺骸などの直接的な痕跡が残りにくく観測が困難な魚類などのマクロ生物を対象とした研究はほとんど行われていない。最近になって、マクロ生物から環境中に放出されたDNAを検出する環境DNA分析手法を用いて、表層堆積物中に含まれる環境DNAが水中に比べて長期間維持されることなどが報告されている。そこで本研究では過去堆積物中の環境DNAをプロキシとして魚類の過去情報の復元を試みた。2019年8月に琵琶湖北湖の水深約70mの地点で過去約130年分に相当する堆積物コアを採取し、厚さ1cm刻みでスライスした堆積試料計31サンプルからDNAを抽出した。有用水産種であるアユ(Plecoglossus altivelis)とイサザ(Gymnogobius isaza)を対象として、種特異的なリアルタイムPCRによって対象種のDNA検出を試みた。その結果、アユは最大で約110年、イサザは最大で約35年前の堆積物サンプルからの検出に成功した。このことから、過去の堆積物中に含まれるマクロ生物の環境DNAを分析することで過去のマクロ生物情報の復元が可能であることが示唆された。堆積物環境DNA分析手法を過去サンプルに適用することで魚類以外にも直接的に化石や遺骸などの生物の痕跡が残りにくい分類群の過去情報も得ることができるようになる可能性がある。