| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PB-178 (Poster presentation)
森林に豊富に存在する樹木の材は、難分解性であり栄養価が低いため、動物にとって利用困難な資源である。しかし、実際には多種多様な昆虫が材を餌資源として利用しており、これには微生物との共生が鍵となった可能性が示唆されている。ハナカミキリ亜科(コウチュウ目カミキリムシ科)は、日本に53属158種が生息する多様な分類群で、ほとんどの幼虫は様々な樹種、状態の材を食べる。メス成虫の産卵管基部に存在する嚢状器官(盲嚢)より酵母が見出されていること、幼虫の消化管に酵母が貯蔵されていることから、ハナカミキリと酵母の共生関係が考えられる。本研究は、ハナカミキリ-酵母共生系の普遍性、および共生酵母の多様性とその機能を明らかにするため、中部山岳地域でハナカミキリ22属38種のメス成虫を採集し、盲嚢の有無を記録した。盲嚢より酵母を分離し、遺伝情報に基づいて同定した。その結果、全ての種から盲嚢が確認され、そのうち18属30種の盲嚢からは酵母が分離された。酵母は14種と同定された。多くのハナカミキリにおいて、種内/属内で特定の酵母が分離されたことから、ハナカミキリ-酵母共生系は盲嚢を介した垂直伝播によって維持されることが示唆された。一方で、種内/属内で異なる酵母が分離された場合もあり、水平伝播による共生酵母の転換も起きた可能性が示唆された。1~数個体のみから少量分離された酵母は、植物の花、果実や環境中に広く生息する種であったことから、盲嚢には非意図的に混入した酵母も含まれることが示唆された。酵母の多くは、広葉樹の材に多く含まれる難分解性成分のキシロースを資化可能な種であったことから、幼虫の材の消化を助けると考えられる。以上より、ハナカミキリの多くの種で酵母と消化共生の関係にあることが示唆された。