| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PB-179 (Poster presentation)
一般に、適度な攪乱は空白パッチを生成するため、群集内の種多様性を向上させる。一方、安定な環境では多様性が低くなる傾向がみられる。湧水性河川は水温・流量が比較的安定しているため、攪乱の影響を受けにくいとされている。湧水環境における魚類や底生生物に関する研究は行われてきたが、それらに寄生する生物はこれまで注目されてこなかった。魚類寄生虫は、宿主の体内に生息するため物理的な影響を直接受けることはないが、生活環のそれぞれのステージで宿主を介した影響を受けると考えられる。魚類寄生虫群集が湧水河川から受ける影響について明らかにするため、河川上流部の支流の湧水・非湧水河川の魚類寄生虫群集を比較した。安定的な環境である湧水支流では、寄生虫群集内の種多様性が低く なると予想した。
2019年8月に北海道中央部の空知川水系の上流部9支流で網羅的に魚類を採取し、7魚種209匹について解剖を行った。火山帯を流れる5支流と非火山帯を流れる4支流をそれぞれ湧水・非湧水環境として扱った。
湧水・非湧水河川間では宿主の種構成に違いが見られ、湧水河川でイワナ属魚類が多く、非湧水河川でのみニジマスが見られた。予想に反し、得られた魚類寄生虫種数は湧水・非湧水河川間で明確な差は見られなかった 。特に、サケ科魚類に寄生するカゲロウセンチュウ(Salmonema ephemeridarum)は最も多く検出された。本種の宿主への寄生数は宿主の体長に比例にて増加する傾向があり、非湧水支流で最高であることが分かった。
湧水・非湧水間で寄生虫群集に明確な差が見られなかったのは、今回得られた寄生虫の中間宿主に差がなかったからだと考えられる 。
魚類寄生虫群集は、中間宿主が受ける物理的影響を強く反映していることが示唆された。