| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-PB-181  (Poster presentation)

オオヒラタザトウムシ2亜種の遺伝的個体群構造に関する研究
Genetic population structure of riparian harvestman, Leiobunum japanense

*加藤貴範, 土田浩治, 岡本朋子(岐阜大学)
*Takanori KATO, Koji TSUCHIDA, Tomoko OKAMOTO(Gifu Univ.)

オオヒラタザトウムシ (Leiobunum japanense, 以下、本種) は日本固有のザトウムシであり、関東以西から九州まで分布する。本種は形態の差異によってアズマオオヒラタザトウムシ (L. japanense japanense, 以下、アズマ) とニシオオヒラタザトウムシ (L. japanense japonicum, 以下、ニシ) の2亜種に分類されている。過去の採集記録より、アズマは関東以西から中部地方まで、ニシは中部地方以西から九州まで生息している。これまで2亜種の分類は形態的な特徴によってのみ行われており、亜種間の遺伝的な差異については研究されてこなかった。本種は歩行による移動のみを行い、湿度の高い環境を好むことから、気候および地理的な変動に伴う個体群の隔離と遺伝的な分化が起こりやすいと考えられる。本研究では、本種を網羅的に採集し、ミトコンドリアDNAのCO IおよびCO II 領域の塩基配列を用いて、日本列島における本種2亜種の遺伝的個体群構造を調査した。その結果、本種の遺伝系統はアズマとニシ、鹿児島の3系統に分化していることが示唆された。アズマの系統は静岡と岐阜・福井の系統に分化し、岐阜・福井系統はさらに河川集団ごとに分化している可能性が示唆された。ニシの系統は兵庫・岡山に特有の系統と中部から中国地方にかけて広範囲に分布する系統、四国に特有の系統に大別された。鹿児島の系統は2亜種の分化が起こる前に分岐しており。本種の中で最も祖先的であることが示唆された。2亜種の遺伝的個体群構造を比較すると、アズマが狭い範囲で遺伝的に分化しているのに対し、ニシには広域に分布する系統がみられることから、2亜種の間では移動分散能力や適応する微小環境に違いがある可能性が考えられる。


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