| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PB-190 (Poster presentation)
一般に、日本の温帯域の森林植生は暖温帯常緑広葉樹林と冷温帯落葉広葉樹林の2つに分けられる。さらに、植物社会学では小笠原諸島と南西諸島の石灰岩地を除く日本の照葉樹林を、日本本土から南西諸島の低標高域に広く分布するスダジイ林と屋久島以北の高標高域に分布するカシ・イスノキ林の2つに分類する。一方、照葉樹林を構成する植物相には屋久島と奄美群島の間にかなりの不連続があることも知られており、これは生物分布境界線の渡瀬線に対応する。
本研究では、胸高直径(DBH)4.8 cm以上の毎木調査データに基づき、九州南部・屋久島・奄美群島・沖縄島の冷温帯から亜熱帯にかけて、21か所の非石灰岩地の原生的森林を比較し、気候と植物相の影響を明らかにすることを目的とした。
全21調査区を通して50科104属170種が出現した。0.25 haあたり平均種数が最も多かったのは沖縄島(250 m)の46種で、最も少なかったのは屋久島(1200 m)の16種であった。奄美以南の調査区は屋久島以北と比べて多様性が高い傾向にあったが、それは、奄美以南のみに分布する種が多く出現するためであった。森林構造を比較すると、DBH 100 cm以上の樹木は奄美以南の調査区には存在しないのに対し、屋久島以北の調査区の多くには存在した。在不在データによるクラスター分析および除歪対応分析(DCA)では、気候と渡瀬線の影響を反映し、九州南部高地の調査区、屋久島以北の低地の調査区、奄美以南の調査区の3グループに分かれた。優占度データでは、屋久島以北高地の調査区、徳之島を除く奄美以南の調査区、屋久島以北低地および徳之島の調査区の3グループに分かれ、気候・渡瀬線だけでなく遷移の影響も反映されていると考えられる。
このように、この地域の森林の種組成と種多様性は気候と植物相により決定されていることが示された。また、森林構造や種の優占度には自然攪乱または人為的攪乱も影響していることが示唆された。