| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PB-191 (Poster presentation)
国内希少種の中には,国内では絶滅危惧種だが,国外では普通種として分布する種が存在する.このような非固有性の国内希少種では,国内集団の遺伝的多様性・遺伝的分化・固有性を把握し,その状態に合わせた保全対策を講じることが有効である.そこで本研究では,国内では絶滅危惧ⅠB類に指定されている一方で,国外では普通種であるツルウリクサ(Torenia concolor)を主要分析対象種とし,そのほかに同様な非固有性の国内希少植物種を加え,それぞれ保全遺伝学的解析(分子系統・集団遺伝)を行った.これらの解析データにより,これらの種を対象とした保全対策のための遺伝学的根拠を構築することを目的とした.
ツルウリクサの主要な国内自生地である奄美大島の33個体,奄美から距離的に近い国外自生地である台湾の34個体を対象としてDNA分析用試料を採取し,MIG-seq法によってDNA変異情報(SNP:一塩基多型)を取得した.分子系統解析の結果,国内集団と台湾集団は明瞭に分化しており,国内の地域集団間にも遺伝的分化が認められることがわかった.また,各国内集団内の遺伝的多様性は,各台湾集団とほぼ同程度であった.さらに集団動態推定の解析からは,国内集団と台湾集団が分化したのは,少なくとも数千世代前に遡ると推定された.これらのことから,奄美大島のツルウリクサは日本独自の遺伝的系統として島内に分布していると考えられた.今後は,我が国におけるツルウリクサに対して,国内集団の固有性および国内集団間の遺伝的違いを考慮した保全単位(遺伝的なひとまとまりとして保全の対象とする地域集団の単位)を策定することで,本種の適切な保全・管理に努める必要があると考えられた.この結果に加え,その他の非固有性の国内希少植物種について同様な解析を行った結果を紹介し,これらの比較を交えて議論する.