| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PB-198 (Poster presentation)
生物遺骸は高濃度の栄養物質を提供するホットスポットであり、その直下・周辺には特異的な生物群集が形成されると考えられる。実際、深海及び沿岸の海底では、生物遺骸に特異的な微生物群集が形成されることが、近年の研究で示されている。干潟は大気と泥と海水が境界面を形成するユニークな環境であるとともに生物の遺骸を始めとする多くの有機物が堆積する場所である。筆者らによる仙台市東谷地干潟における生物遺骸埋設実験により、干潟においても生物遺骸周辺の底質において周囲とは異なる微生物群集が形成されていることが明らかとなった。本研究ではこれらの微生物群集が地理的な要因にどのような影響を受けるのか調べるため全国で同様の実験を行なった。
実験は青森県陸奥湾、宮城県東谷地干潟、千葉県椎津川、石川県七尾湾、福井県久々子湖、三重県田中川、高知県宇佐湾の計7箇所で行った。実験にあたっては穴開きポリ瓶にマイワシ ( S. melanostictus ) を底泥と共に詰めた実験瓶と底泥のみを詰めた対照瓶をそれぞれ3本用意した。各瓶は1 m以上離して埋設し、埋設から9日後に回収を行なった。回収した瓶からコアサンプラーを用いて、瓶内における表層に近い底泥と深層部分の底泥をそれぞれ別々に採取した。また環境データとして、埋設時と回収時にそれぞれ地温と酸化還元電位、塩分濃度の測定、さらに埋設中の地温を、温度ロガーを用いて測定した。合わせて実験前の底泥サンプルの採取も行なった。採取した底泥試料からはDNAを抽出し、PCRで細菌16S rRNAおよび繊毛虫18S rRNA遺伝子を増幅、NGSによる塩基配列のメタ解析を行った。本報告では、得られた分子データから、細菌および繊毛虫群集の構造解析を行い、地理情報および環境データと比較しながら、干潟でみられる生物遺骸が導く微生物群集の地理的変異と特異性について考察する。