| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-202 (Poster presentation)
降雨は森林生態系への栄養塩の大きな供給源であり、降雨の一部である樹幹流は、森林における物質循環のひとつの経路である。そこで本研究では、樹幹流の通り道である樹皮形態の多様性に着目し、複数の樹種の樹幹流を立地や季節および解剖的観点から検証することで、樹皮の構造が樹幹流の化学成分に及ぼす影響を解明することを目的とした。
外部形態のそれぞれ異なる樹皮タイプを持った落葉広葉樹4樹種および常緑針葉樹2種の計6樹種を対象とした。南アルプス山間部(静岡サイト)および筑波大学筑波キャンパス内(つくばサイト)において調査を行ない、山間部と都市部を比較した。着葉期と落葉期それぞれに林外雨・樹冠通過雨・樹幹流のサンプル採取を行ない、pH・全有機炭素量・無機イオン濃度を分析した。対象樹種の樹皮の浸水実験および解剖実験を室内実験として行なった。
Cl-など林内の乾性沈着物の洗脱物は、山間部において滑らかな樹皮タイプの樹幹流に多く含まれた一方、都市部では粗い樹皮の樹幹流で高濃度に含まれ、これら樹皮表面での物質の動態は樹皮の周皮部分の構造の影響を受けることが示唆された。有機成分やMg2+といった溶脱物は、両サイトにおいて粗い樹皮タイプの樹幹流に多く含まれており、これら樹体内部と外部の物質交換には周皮の厚さや内部の二次師部の構造が関連していると考えられた。窒素成分および無機陽イオンのうちK+は、平滑な樹皮タイプの樹幹流で一部高濃度になる傾向があり、これらは樹皮の皮層がスポンジ状になっているという特徴的な構造がみられた。
以上の結果から、樹皮の外部構造および内部構造の解剖的特徴と樹幹流にあらわれる化学成分の傾向が関連付けられた。また、山間部と都市部、着葉期と落葉期の比較検証から、立地や降水量といった要因で樹皮形態の効果が異なることも示唆された。