| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-PC-203 (Poster presentation)
枯死木は極めて多様な種の資源であることから、近年、生物多様性に対する枯死木の重要性について注目が集まっている。枯死木は、樹種や優先する腐朽菌(枯死木を化学的に分解する菌類)、枯死からの時間などに影響を受けて質的に異なる資源となり、枯死木に依存する種の多くは、これらに対して選好性を有する。そのため、多様な枯死木の質が膨大な種の多様性を維持していることが指摘されつつあるが、枯死木の質、特に腐朽木(腐朽菌による化学分解を受けた枯死木)の質に対する種の棲み分けのメカニズムに関しては、不明確な部分が多い。例えば、腐朽木を摂食するクワガタムシ科昆虫の生息において、腐朽型(関与した腐朽菌により白色腐朽・褐色腐朽・軟腐朽に大別される)が影響することが知られるが、この選好性が 仮説1;メス成虫の産卵時の基質選択に由来するのか? 仮説2;幼虫の資化能力による淘汰に由来するのか?は不明である。Araya(2002)では、褐色腐朽材に選好性を有するツヤハダクワガタにおいて、①メス成虫は褐色腐朽材に産卵選好性を有すること、②幼虫は白色腐朽材を資化できないこと が示されているが、他種に関する情報はほとんどなく、知見の集積が求められている。本研究では、我が国において最も普遍的に生息する種の一つで、白色腐朽材を選好することが明らかにされていることから、コクワガタを対象種とした。腐朽木のモデル樹種には、褐色腐朽材と白色腐朽材が比較的容易に収集可能であったことから、サクラを選択した。収集することができなかったため軟腐朽材は扱わなかった。本研究では、対象種の腐朽型に対する選好性のメカニズムを明らかにするため、1)メス成虫に褐色腐朽材・白色腐朽材を同時に与え、産卵における腐朽型選好性を明らかにし、2)褐色腐朽材・白色腐朽材を与えられた幼虫の成長率の差異から、各腐朽型における資化能力を明らかにした。本発表では以上の試験の結果を報告する。